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不器用で素敵な「向き」の映画

2012年12月13日、第70回ゴールデン・グローブ賞で、作品賞、主演男優賞、主演女優賞にノミネートされた作品です。

英国で一大ブームを巻き起こしたポール・トーディの小説「イエメンで鮭釣りを」を、「スラムドッグ$ミリオネア」のサイモン・ビューフォイ脚本、「ギルバート・グレイプ」のラッセ・ハルストレム監督で映画化。無謀な国家プロジェクトに巻き込まれた主人公の学者が奔走する姿や、プロジェクトにかかわる人間たちの恋や友情をユーモラスに描く。英国の水産学者ジョーンズ博士のもとに、砂漠の国イエメンの大富豪から、鮭釣りがしたいのでイエメンに鮭を泳がせてほしいという依頼をもちこまれる。そんなことは不可能と一蹴したジョーンズだったが、中東との緊張緩和のためにと外務省が支援を決め、首相まで巻き込んだ荒唐無稽な国家プロジェクトに展開してしまう。ジョーンズ博士役にユアン・マクレガー。共演にエミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマスら。

小説を読んでから映画を観てしまうと、かなりがっかりするらしいこの映画。ちょっとストーリーが違うみたいですね。

まぁ「砂漠の国イエメンで、鮭を釣る。」という設定自体がかなり奇想天外で、映画にする際のインパクトは凄いものの、詳細な描写を読んでからだと「ん?」って思ってしまうんでしょう。納得といえば納得です。

ストーリー自体に関しては、かなり予定調和的でした。こうなるんだろうな。という感じで話が進んでいく。

それでも、いいなぁと思ったのは映像の表現方法。

「主人公が通常通り出勤しようとしたものの、ヒロインが心配で、家を尋ねるシーン」「溯上は出来ないとされていた養殖の鮭が、向きを変えて溯上し始めるシーン」というこの物語のカギを握るシーンがあるのですが、二つの象徴的なシーンを同じような撮り方で重ねて表現しているのがとてもよろしい。

この作品はおそらく「向き」の映画なんだろうと思いました。

・イエメンの砂漠地帯で鮭釣りするという当初ばかばかしいと思っていたプロジェクトにのめり込んでいく主人公の向き
・絶対に溯上できないとされていた養殖の鮭が遡上する向き
・戦地から帰ってきた昔の恋人と帰国せずに、主人公とともにイエメンでのプロジェクトを続けると決断するヒロインの向き
・アクシデントにより一時失敗かと思いきや、鮭が生きていたことによる希望への向き

全てUターンするんですね。
そのことが、主人公と鮭の映像で表されていたんじゃないかと思います。

そして、妻がいる研究者の主人公と、恋人がいる大富豪の代理人のヒロインの異国での恋愛がとても好きでした。一応この映画の括りは”ラブストーリー”なんだけど、ラブストーリーにしてはとても控えめというか、わざとらしさが全くない。ユアン・マクレガー演じる主人公の、ちょっとピントのずれた気弱な性格のおかげなのかな。

ところどころに含まれている笑える要素もイイ。特に首相と広報担当者のチャットの様子。政府を笑い者にする感じは、イギリス映画ならではといった感じかと。

にしても、美人ですね。エミリー・ブラント。どっかで観たなぁと思ったら「LOOPER」でした。
色白で青い目をしている西洋の美女は、黒髪の方が映えると思いますね。ただの黒髪フェチでしょうか。

GATTACA

舞台は、遺伝子操作により管理された近未来。主人公は宇宙飛行士を夢見ているですが、いわゆる「普通の方法」で生まれた彼は劣勢の遺伝子の為に希望のない生活を過ごします。身長でも体力でも遺伝子操作によって生まれてきた弟に負けたり、寿命は30年だと宣告されたりと。

家族からも、”能力には限界があるから宇宙飛行士は諦めろ”と言われる始末。家族の言う通り試験には落ちたものの、水泳勝負では弟に勝ち、溺れた弟を助け、自分の可能性を信じて家を出ることに。

「不適正者」の主人公はホワイトカラーになれない中、闇業者の手配によって、事故で半身不随になった元プロ水泳選手との契約を結び、その優秀すぎる遺伝子を用いて彼に成り済まし、宇宙飛行施設”ガタカ”(多分、今でいうところのNASAといったような感じ。)に潜り込む。

そんな中、殺人事件が起こり、警察が躍起になって遺伝子検査を開始。さぁどうしましょう。というお話。

そういえば、誰かにオススメされたっけなぁ。とたまたまDVDを見つけて観たんですが、思っていた以上に面白かったです。

就職面接に尿検査があったり、研究施設に入る時にはまるでスイカをタッチするかのように人差し指から血液を採取されたりと、近未来SFを思わせている割に、劇中に出てくる建物自体は60年代を思わせるような至ってレトロ。

そのアンバランスな感じが、なんとも不思議な世界観を醸し出していて好きでした。そして、映像がめちゃくちゃ綺麗。14年度作といってもおかしくないくらいに。

また、「不適正者」の主人公と、主人公に名前を貸すことで自分はこの世にいない存在として生きる「真の適正者」である元水泳選手。この二人の関係性が見物です。両者共々、お互いに夢を与え合って、二人で掴もうとする。このなんとも言えない絶妙な関係性。

さらに、GATTACAという不思議なタイトル。本編に入る前の監督なり出演者の紹介にも、”G” 、”T”、”C”、”A”の4文字は強調されて表示されていたんですが、この4文字はDNAの基本塩素の頭文字だそうで。

(グアニン、チニン、シトシン、アデニンらしいです。)

元水泳選手役は、ジュード・ロウが演じているんですが、やはり、彼はイケメン要素の塊のような人間で、こんな顔に生まれていたらいかに人生がバラ色だったろうか。と、鑑賞中5回以上は思いました。(うらやましい)

「僕に指図するな!僕に何ができて、何ができないか決めつけるな!」

「この世は不可能なことばかりだと思うか?欠点を探すことばかりに必死になってるから、本当のことが見えなくなるんだ。」

「あの時もそうだった。戻ることを考えないで、全部の力を出し切ったんだ」

作品自体は落ち着いた雰囲気の中で淡々と進みますが、遺伝子だけでは単純に分類できない人間の可能性、夢を諦めないことが真の適正であるというメッセージ、実現がそう遠くはないだろうという遺伝子管理社会など、考えさせられることは多かったです。生まれながらにして優勢な人は、立ち止まったり戻ったりする余裕があるものの、劣勢側としては努力して進み続けるしかないと。

ただ、「努力すれば夢は叶う!」といった言葉にすれば、かなり安っぽいことを訴えたいんだろうなと思ったと同時に、もしかしたらそれとは真逆の残酷性を真のメッセージとしていても少しもおかしくない。それが、ちょっと怖いなとも思いました。無駄がない分、どちらとも捉えられるような。

DNA鑑定が騒がれている昨今、本作のようなことが現実でももし起こったら….と想像すると恐ろしいんですが、後々になって調べてみたら、NASAが選んだ現実的なSF映画第一位にも選ばれているみたいで。

突拍子もないような現実離れしすぎでしょう、おいおい。といったような作品は嫌だけど、たまにSFでも観てみるか。といった方にはかなりオススメですね。

話が飛びますが、

「息子が君のファンなんでね」

と、医師が主人公に語りかけるシーンは本当に素敵だったなぁ。