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救いようのない「夢」と「現実」

観てきました。「ドリームホーム 99%を操る男たち」。久々の社会派サスペンス。2007~8年、連鎖的に世界を揺るがしたサブプライム・ローン問題とリーマン・ショック。100年に1度とも言われた金融パニックのなか、債務にあえぐ庶民が自宅を没収される現実という、かなり骨太な題材。

ちなみに題名にある”99%”とは、ノーベル賞受賞の経済学者・ジョセフ・E・スティグリッツの著書「世界の99%を貧困にする経済」の中で提唱した「世界の富の1/4をたった1%の最富裕層が所有しており、残り99%は貧困である」という説からの引用です。

幼い頃からの思い出がぎっしりとつまり、家族との絆を育んできた「家」を、強制的に奪われる現実。その過酷な実情は思わず目を背けたくなりました。そして、弱者に対する不正が繰り返され、腐敗した銀行が何も罰せられずにお金を稼ぎ、貧富の差はますます広がっていく。理不尽極まりなく、まさに救いようのない。

かつては家族を構成する起点として重要な役割を持っていた「家」も、本作では世界中をターゲットにできる、いわば”商品”。富裕層にとってそれは投資の対象であると。その点、主人公たちの家に対する考え方はまさに対極的。今回立ち退きを命じられたデニスにとっての家とは、たとえどんなに質素な家であっても、愛する息子を守れるという力を表す象徴であり、一方悪徳ブローカーのカーバーにとっては、利益を上げるために数カ月で売り払う箱でしかない。

自分も含め、ほとんどの人は家族と過ごしてきた生まれ育った我が家に対し、特別な感情を抱くはず。その家から突然に出ろと言われ(しかも2分で)、そして挙句の果てには”不法侵入”呼ばわりされるとしたら、人は簡単に豹変するでしょうね。また、差し押さえに抗議する裁判では、1つの裁判が60秒で終わる。それほど多くの庶民に被害があったと。

普段ニュースやデータを通し、数字としてしか見えていなかった実情をその過酷さに遭遇した人々にスポットを当て、かなり感情的に描いている点を考えると、社会派サスペンスというよりもむしろ、ヒューマン・ドラマ的な要素が強い作品でした。鑑賞後、思わず誰かと議論したくなる。

主演のアンドリュー・ガー・フィールド、マイケル・シャノンは、もう~素晴らしかった。(思わずスパイダーマンとゾッド将軍が頭の中で闘い始めましたが)今作主演のアンドリュー・ガー・フィールドは脚本を30ページほど読み終えたところで、デニス役を演じたいと熱望したとか。

そんなデニスが、家を差し押さえられた相手であるカーバーとともに働き、段々と理性を失いつつ金稼ぎのシステムに溺れていく光景はかなりの見ごたえです。デニスが最後に下した決断と、作品冒頭のカーバーが対照的なのも上手い演出でしたね。フランク・グリーンとの関わりがなかったら、デニスも死者を出すという一線を越え、カーバーと同じようにどこまででも溺れていったんだろうな。

最後に、マイケル・シャノン演じるカーバーの印象的なセリフを引用。

“アメリカは負け犬に手を差し伸べない。この欺瞞の国は、勝者の勝者による勝者のための国だ”

“ノアの方舟に乗れるのは100人にひとりだ。他は溺れ死ぬ”

2016年度手汗をかく映画No.1(のはず)

1月に観た映画。結構お勧めなので書きます。

結論、相当よかったです。思わず圧倒される映像。
流石はロバート・ゼメキス(「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「フォレスト・ガンプ」の監督です)。

ジョセフ・ゴードン・レヴィット(思わずフルネームで言いたくなる名前)が主演ということで、もう観るしかないな。と思い鑑賞。

IMAX 3Dで感じる地上411メートル・タワー間42.67メートルの綱渡り。
まさに狂気でした。(実際、綱渡りのシーンで唸ってるおっさんがいました(うるさかったけど共感した))

いやー、はんぱないほどに手汗をかいた。ただただ歩行するのではなく、途中の数々の行動がもう….(このハラハラ感はぜひ劇場で)

とにかく映像が圧巻なので、「ゼロ・グラビティ」、「マッド・マックス」のように、ぜひ劇場で見てください。

フィリップ(主人公)は、なぜこの大歩行をしたのか。
と、ぼんやり考えていましたが、千住博さんが書いていることに合点がいったため、引用します。

…フィリップが”美”と感じた対象は、何もない虚空の空間だった。A地点とB地点の間がぽっかり空いている。その空間にフィリップは感動し、その中に入っていって美を確かめたくなる。「美しい場所を見ると我慢できない」と彼は言うのだ。ではフィリップの言う”美”とはなんだろう。それは同じくフィリップの言葉により私たちは納得する。「This is life.」即ち、美とは生きている実感、と彼は言う。
ここで美について少し考えてみることにしよう。美とは何か。私たちは例えば口にして、”美味しい”と感じる。この感覚を英語でも”ビューティフル”と言うこともある。美しい味、と書く美味という感覚は、文字通り”美的体験”だ。ではその時、私たちは何を思っているのだろう。それは生まれてきてよかった。勇気がわいてきた、元気が出た、生命力を得た、そして生きていてよかった、というようなことなのではないだろうか。美しい人に会ったり、美しい音楽を聴いたり、美しい絵を見たりした時もまったく同じだ。つまり”美”とは、生きているリアリティーに感動する感覚だ。
フィリップは虚空を見つめ、目の前に広がる空間にその”美”を感じる。彼はこの空間を持てる能力すべてを使って把握し味わおうとする。そしてその為に費やす極めつきの質の高い時間を満喫する。フィリップはここにおいて、究極の舞踏家と言える。なぜなら舞踏とは、バレエであれ能であれ、空間と時間を”美”として認識し、その理解したものをコントロールされた感動とバランス感覚をもって全身で表現し、他者と分かち合う行為だ。フィリップは彼を包む空間を、緊張感のある、生死を超えた”美”敵存在としてとらえ、それを彼独特の方法で咀嚼していたのだ。…

即ち、彼は一人のアーティストであったのに加えて、誰もが持つ”美しさを求める”という人間的欲求を究極まで求め、自分独自の表現方法で体験(表現)したかったんですね。

ただ、誰しもが無理だとあきらめる or 発想すらもたないことを、実行する勇気、取りつかれたかのような夢への執着心があったと。

結果(目的ではないにしろ)、落成当時不評だったワールドトレードセンタービルを、市民にとってなじみ深いものに変えたのは、この大歩行だった。

また話は変わりますが、この話が実話だということが何よりこの映画の魅力ですね。(意外と知らない人が多い)

Wikipediaはこちら

今回、綱渡り未経験のジョセフ・ゴードン・レヴィット(またフルネーム)には、フィリップ・プティ張本人が教えたみたいです。

そんなフィリップはいまだにニューヨークに住んでいるそう。彼が9.11をどう感じたのか。気になりますね。

2008年にジェームズ・マーシュが撮った「マン・オン・ワイヤー」というドキュメンタリー映画を観ると、よりこの映画が多角的に観えるかもしれない。(と、映画好きの友人に言われたので観ようかしら)