勤務先の先輩にお勧めされた一冊。名著でした。
>> 最強の営業戦略―企業成長をドライブするマーケティング理論と実践の仕掛け
営業組織がうまくいかないとき、企業はしばしば「営業力が足りない」と言いますが、この言葉のなかには、まったく異なる問題がまとめて押し込められています。
- 営業担当者の商品知識が足りないのか
- 商談スキルが足りないのか
- そもそも狙う顧客が間違っているのか
- 提供価値が曖昧なのか
- 社内調整に時間を奪われているのか
- 評価指標が、望ましくない行動を誘発しているのか
原因を分けないまま「営業力を高めよう」とすると、研修を増やす、会議を増やす、入力項目を増やす、といった施策に向かってしまいます。
その結果、営業担当者はさらに忙しくなる。けれども、顧客に向き合う時間は増えず、営業力も思うようには上がらない…という負のスパイラル。
本書は、こうした営業組織の問題を、個人の能力ではなく、戦略と組織の設計として捉え直す一冊でした。
自分はこれまで、スタートアップやベンチャー企業から大手企業まで、異なるフェーズの組織を経験してきました。 そして、両者は正反対に見えるかと思います。
- 大手企業:分業、会議、承認、制度がある
- ベンチャー:速度、兼務、口頭での共有、個人の裁量がある
ただ、営業が弱くなる構造には共通点があります。
- 戦略と現場の活動がつながっていない
- 成果を生む判断が個人の頭の中に閉じている
- 顧客から得た情報が、組織の学習に変わっていない
本書自体が大企業とベンチャーを対比して論じているわけではありません。
ただ、自分が両方の組織で感じてきた課題に照らし合わせて考えると面白いかなと思い、ここからは大手・ベンチャーの2軸を踏まえつつ、整理してみます。
営業力は「優秀な営業担当者の数」では決まらない
本書の前提となっているのは、営業を単なる販売部門として見ないことにあります。
「営業は企業と顧客とを結ぶメインのインターフェース」
営業は、会社が決めた商品を顧客に説明し、契約を取ってくるだけの存在ではなく、会社の戦略を顧客接点で実行すると同時に、顧客の要望、競合の動き、市場の変化を社内へ持ち帰る。
いわば、営業とは、企業と市場の間を情報が往復するための「接続点」であると。
だから、営業力を強くするためには、営業担当者だけを変えても不十分。
- 経営が何を目指しているのか
- どの顧客を優先するのか
- 商品はどのような価値を提供するのか
- 価格や契約条件はどう設計されているのか
- 営業以外の部門が、どこまで支援するのか
それらがつながって、初めて営業力になるとしています。そして、本書では、営業力強化を次の6つのステップに整理しています。
- 戦略・ターゲティングの明確化
- 戦略と個別活動とのリンク
- 営業の役割定義と活動の標準化
- 営業活動の効率化
- 営業体制の構築
- 営業活動のPDCAの仕組みの確立
この6つの前提として、「営業活動を何によって評価するのか」というモノサシの見直しがあります。
ここで興味深いのは、大企業とベンチャーでは、この各ステップが異なる理由で壊れやすいということです。
ここからは7つの論点に分けて書いてみます。
1.KPIは、単なる管理指標ではなく、経営から現場へのメッセージである
売上は重要。とはいえ、売上そのものが企業活動の最終目的ではありません。
- 大幅な値引きをして売った商品
- 専用品の開発や特別対応を必要とする案件
- 頻繁な小口配送や手厚いサポートが必要な顧客
こうした取引は、売上だけを見れば優良案件に見えます。しかし一方で、対応コストまで含めると、利益をほとんど生んでいない可能性も多いかと。
それでも営業評価が売上だけで決まるなら、営業担当者は売上を最大化しようとする。値引きをしてでも大型案件を取り、手間のかかる顧客に時間を使う。
これは営業担当者の意識が低いのではなく、会社が設定したモノサシに対して、合理的に行動しているだけ。(あるあるだなーと思いました)
大手組織で起きやすいこと
大手企業では、売上目標だけでなく、部門別、商品別、エリア別の目標が積み重なりやすい。
そんな状況下、営業担当者は、顧客にとって必要かどうかよりも、「今期、この商品を売る必要があるか」を優先するようになります。
さらに、商品部門ごとに目標が設定されると、一人の顧客に対して複数部門が別々に営業することもある。
その結果として、会社側では合理的に見える管理体系が、顧客側では断片的な営業体験を生んでしまうことに繋がると。
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、新規契約数、商談数、受注額など、成長を説明しやすい数字に評価が寄りやすい傾向かと思います。(投資家に対する説明材料としてもわかりやすいため)
たとえばSaaS企業で、新規ARRだけを強く追えば、将来の解約可能性が高い顧客や、導入支援コストの大きな顧客まで獲得する動機が生まれます。
アポイント数を重視すれば、商談化しにくい顧客への接触が増えます。新規契約数を重視すれば、既存顧客の活用や継続がおろそかになります。
立ち上げ期には単純な指標が必要ですが、その指標が組織の成長段階に合わなくなっても使い続てしまう。その結果として、数字は伸びているのに事業の質が悪くなるというアンビバレンスな状況を生んでしまいます。
学び
KPIを見るときには、「この数字を追うと、現場はどのように行動するか」を考える。
そのためには、KPIを次の三段階で確認する。
- この数字によって促したい行動は何か
- 同時に、どのような望ましくない行動が起こりうるか
- 売上だけでなく、利益、継続性、対応コストを捉えられているか
そのためKPIは、結果を測るためだけのものではなく、会社が何を大切にしているかを、現場に伝えるメッセージであると言えるでしょう。
2.戦略は、営業担当者の「来週の行動」まで落ちているか
「重点顧客を深耕する」
「高付加価値商品を拡販する」
「顧客起点の営業へ転換する」
企業の営業方針として、こうした言葉はよく使われがちです。
ただし、これだけでは営業担当者の行動は変わりません。
- 重点顧客とは、具体的にどの企業なのか
- その顧客を優先する理由は何か
- 誰に接触すべきなのか
- どのような課題を想定するのか
- どの製品を提案するのか
- 次の商談で、何を確認すべきなのか
ここまで落とされて、初めて戦略は営業活動になります。
大手組織で起きやすいこと
大手企業では、戦略自体は丁寧につくられていることが多い印象です。
問題は、経営戦略、事業戦略、部門方針、営業施策を経るうちに、現場へ届く言葉が抽象化されてしまうこと。
それぞれの階層が重要項目を追加するため、「重点」が増え続けることもあります。
重点業界、重点顧客、重点商品、重点テーマ、重点KPI・・・・と、すべてが重点になれば、現場から見れば何も重点ではないじゃん!というやつです。
結果として、営業担当者は過去の経験や顧客からの依頼に基づいて動く。戦略は存在していても、日々の活動との関係が切れてしまう。
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、戦略が経営者や創業者の頭の中に存在していることが往々にしてあります。(経験談)
誰よりも事業・サービスについて考えている身として、どの顧客を狙うべきなのか、どの課題が強いのか、競合とどう違うのかを、創業者自身は直感的に理解している。
しかしながら、営業メンバーが増えると、その直感を共有しきれなくなっていく。
先週の経営会議でターゲットが変わった。
創業者の商談では伝わるが、他の営業では伝わらない。
新しい方針がSlackで共有されたが、既存の案件は以前の基準のまま進んでいる。
変化の速さはベンチャーの強みですが、方針変更が活動に反映される仕組みがなければ、組織内に複数世代の戦略が共存してしまいます。
学び
戦略を伝える際には、理念やスローガンだけでなく、最低でも次の問いに答える必要があります。
- 誰を優先するのか
- 誰を、あえて追わないのか
- どの顧客課題に応えるのか
- 自社が選ばれる理由は何か
- 次の商談で何を確認するのか
- どの状態になれば案件を進め、どの状態なら撤退するのか
そして、戦略の完成度は、経営資料の美しさでは決まりません。
現場が顧客を前にしたときの迷いを、どれだけ減らせるかが重要です。
(このあたりのサイエンス、ほんと面白いですよね)(関係ないので黙ります)
3.標準化するべきなのは、話し方ではなく「判断の仕方」である
営業の標準化というと、トークスクリプトや商談マニュアルを思い浮かべるかもしれません。
しかし、顧客の状況は一社ずつ違うため、すべての顧客に同じ話をしても、営業成果は上がりません。
本当に標準化すべきなのは、営業担当者の個性ではなく、成果を生むための判断とプロセスです。
- 顧客の課題をどう捉えるのか
- 誰が意思決定に関わっているのか
- どの情報が揃えば次の段階へ進めるのか
- 商談が止まっている理由は何か
- 次のアクションをどう決めるのか
優秀な営業担当者ほど、こうした判断を経験的に行っています。
しかし、その判断基準が本人の頭の中にしかない場合、組織は何度でも同じ失敗を繰り返すことになります。
大手組織で起きやすいこと
大手企業では、すでに多くの業務プロセスやルールが存在します。(少なくとも私が現職で対面するクライアントにはかなり確からしいルールがしっかりと存在しています)
そのため、新たな課題が起きるたびに、確認項目、会議、承認、報告フォーマットが追加されやすいのです。
標準化が、再現性を高めるためではなく、問題が起きたときに責任を追跡するための仕組みになってしまう。
結果として、営業担当者は顧客に向き合うより、社内プロセスを正しく通過することに時間を使うことになります。まさしく大手あるある。
大手企業に必要なのは、標準化を増やすことではなく、どの標準化が成果に寄与し、どの標準化が形骸化しているかを見極めることにあります。
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、標準化そのものが敬遠されてしまうことがあります。
「顧客ごとに違うから」
「今はまだフェーズが早いから」
「プロセスをつくるとスピードが落ちるから」
こうした判断にも一理あるでしょう。
プロダクトや市場が定まっていない段階で、営業活動を細かく固定すれば、顧客から学ぶ力を失うからです。
一方で、営業担当者が増えたあとも何も標準化しなければ、各メンバーが独自の営業方法をつくり、同じ失敗を別々に経験することになります。
ベンチャーに必要なのは、完成された営業マニュアルではないものの、最低限、次の四つを共有することが重要でしょう。
- 商談をどの段階に分けるか
- 次の段階へ進むための条件は何か
- 各段階で確認すべき情報は何か
- 誰が、いつまでに、何をするか
学び
標準化は、全員に同じ営業をさせるためのものではありません。
繰り返し考える必要のないことを減らし、顧客ごとに本当に考えるべきことへ、営業担当者の頭と時間を使うためにあります。
自由度を残すためにこそ、最低限の型が必要ということです。
4.営業担当者を増やす前に、営業の時間を営業へ戻す
本書では、営業担当者が付加価値の高い活動に使えている時間は、10〜20%程度にとどまるケースがあると指摘しています。
残りの時間の用途は、報告資料の作成、社内会議、承認手続き、問い合わせ対応、移動、データ入力・・・・など。(これも営業経験者なら結構頷くところかなと)
営業担当者が忙しそうに見えることと、営業活動が充実していることは別問題ということです。
大手組織で起きやすいこと
大手企業では、営業担当者が多くの社内関係者を動かす役割を担います。(担うことが多い、という表現の方が正しいかもしれない)
- 商品部門への確認
- 法務や経理との調整
- 価格承認
- 上司への説明
- 複数会議への出席
- 同じ内容を少しずつ変えた資料の作成
一つひとつにはやるべき理由がある。しかし、全体として見ると、顧客に価値を提供する時間を圧迫している。
特に問題なのは、営業DXの名のもとに、入力項目やレポートが追加されることです。
SFAやCRMは、本来、営業を支援し、組織の学習を促すための道具のはず。ところが、管理側が欲しい情報を集めることが目的になると、営業担当者にとっては新たな報告作業に成り下がります。
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、営業担当者が営業以外の仕事も兼務するケースがあります。
- 提案資料をゼロからつくる
- 導入支援をする
- 問い合わせに答える
- 契約手続きを進める
- 顧客の要望をプロダクトチームへ伝える
- 場合によっては、採用や広報まで手伝う
立ち上げ期には、こうした兼務が顧客理解につながります。ただ、顧客や案件が増えても同じ状態を続けると、営業の生産性は急速に落ちることにもなる。
売れない理由が営業スキルではなく、「営業担当者が営業に使える時間がないから」ということも珍しくない事象だなと。
学び
営業人員を増やす前に、一度、営業担当者の時間の精緻な可視化が必要だなと思いました。
2週間程度、活動を次の3つに分けて記録するだけでも、多くのことが見えるはずです。
- 顧客への価値提供に直接つながる活動
- 事業運営上、必要ではあるが付加価値の低い活動
- 削減、統合、移管、自動化できる活動
効率化とは、営業担当者をさらに速く働かせることではなく、営業担当者がやらなくてもよい仕事を見つけること。(これは口酸っぱく使っていきたい)
5.営業組織は、社内の都合ではなく「顧客の買い方」から設計する
企業の組織図は、商品、地域、業界、機能などによってつくられています。
しかし当たり前ですが、顧客は企業の組織図に合わせて買うわけではなく、自社の課題を解決するために、必要な商品、知識、支援を一つの会社から受け取ろうとしています。
大手組織で起きやすいこと
大手企業では、製品や事業部ごとに営業組織が分かれていることが一般的です。その結果、一社の顧客に対して、複数の営業担当者が別々にアプローチすることになります。
顧客側からすると、同じ会社なのに情報が共有されていない。過去に説明した内容をもう一度伝える必要がある。製品ごとの提案は受けるが、全体課題を見てくれる人はいない。
社内では最適化されているのに、顧客接点では分断されている状態といえます。
こうした組織では、顧客単位で全体を見るアカウント責任者と、商品や領域ごとの専門家を組み合わせる必要があります。
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、役割が人に紐づきやすくなります。
創業者が営業し、受注後もそのまま顧客対応を続ける。営業、カスタマーサクセス、プロダクトの境界も曖昧である。
初期段階では、その曖昧さが強みになるケースも。顧客の要望が直接プロダクトに反映され、意思決定も速い。
ただし、顧客が増えたタイミングで、誰が責任を持つのかがわからなくなってしまう。
- 契約までは営業
- 導入後はカスタマーサクセス
- 機能要望はプロダクト
- 契約更新は、また営業
それぞれの役割はあるものの、顧客全体の成功に責任を持つ人誰だっけ?問題が発生するやつです。
(なくなく営業が担うことも、CSが担うことも経験してきました)
学び
組織設計を考えるときは、まず顧客の購買プロセスを前提に描くべきでしょう。マーケティングの視点でいえばカスタマージャーニーマップ等が分かりやすいかと。
- 顧客が自社を知る
- 比較する
- 社内で意思決定する
- 契約する
- 導入する
- 活用する
- 継続や追加購入を判断する
各段階で、顧客は何を必要としているのか。誰が支援するのか。情報を誰へ引き継ぐのか。
組織図から顧客対応を考えるのではなく、顧客の買い方から役割を逆算して設計すべき、ということです。
顧客は、自社の部門間の事情には関心がない。ということを改めて認識する必要があると思いました。
(部門名と肩書だけ永遠に増えていくのが代理店あるあるなので、個人的にはかなり肝に銘じなければならないやつです)
6.PDCAを「未達理由を説明する会議」から、組織が学ぶ仕組みに変える
営業におけるPDCAというと、売上実績や案件進捗の確認を思い浮かべます。
しかし、数字を確認して、未達の営業担当者に理由を聞くだけでは、組織は強くなりません。
(言われてみたらそうなんだけど、フォーキャストと進捗・状況確認で終わる会議ははびこってますよね….)
本書では、個々の営業担当者が回すPDCAと、営業組織全体が回すPDCAを分けて考えています。
個人は、担当顧客や案件に対して次の行動を修正する。組織は、複数の案件で繰り返されている問題を見つけ、ターゲット、商品、価格、プロセス、支援体制を見直す。ということです。
大手組織で起きやすいこと
大手企業はデータを比較的多く持っている一方で、データが報告や評価のために使われ、改善のために使われていないケースも発生します。
営業会議では、売上、案件数、進捗率が読み上げられる。未達案件について理由を聞かれ、担当者が説明する。
しかしながら、同じ失注理由が複数の営業担当者から出ていても、商品や価格、業務プロセスの問題として扱われない。
データは豊富なのに、組織学習が乏しい状態ということです。
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、顧客との会話や現場情報が多い印象です。
Slackには商談の気づきが流れ、経営者も顧客の声を一定の組織規模までは直接聞けています。
ただその一方で、その情報が整理されず、声の大きい案件や直近の商談に意思決定が引っ張られやすくなる。
一人の顧客から言われたことが、全市場のニーズとして扱われる。創業者が最近聞いた要望によって、営業方針や開発優先順位が変わる。
もちろん対話は豊富ですが、検証可能な学習になっていない状態といえるでしょう。
学び
営業会議では、案件の状況を次の4つに分けて確認するべきです。
- 何が起きているのかという事実
- なぜ起きているのかという解釈や仮説
- 個人で対応するのか、組織として変えるのかという判断
- 誰が、いつまでに、何をするのかという次の行動
この4つを分けるだけでも、会議は報告の場から意思決定の場に変わるはず。
個人の失敗を責めるのではなく、複数の失敗から共通構造を見つける。
その点、強い営業組織とは、失敗しない組織ではなく、同じ失敗を繰り返さない組織といえます。
7.営業改革は、営業部門だけでは完結しない
本書には、次の指摘があります。
「営業の変革は、営業部門に閉じた中だけではかなり難しい」
営業が顧客へ提供できる価値は、営業担当者だけで決まるわけではないからです。
価値に影響する変数として、例えば、商品、価格、契約、在庫、物流、導入支援、カスタマーサポート、人事評価などなど・・・・
営業成果には、さまざまな部門の意思決定が影響しています。
大手組織で起きやすいこと
大手企業では、営業担当者が顧客課題を把握しても、それを商品や業務の改善につなげるまでに時間がかかります。
営業は「顧客からこう言われた」と伝える。商品部門は「個別要望なのか、市場全体のニーズなのか」と問い返す。業務部門は「運用コストが高い」と反対する。
各部門の主張には、それぞれ合理性があります。
問題は、顧客価値と企業収益の両方を見ながら、部門をまたいで判断する場がないこと。
営業改革を営業部門だけに任せると、営業担当者へ新しい行動を求める施策に偏りやすいでしょう。
(このあたりは、SFA・CRM導入プロジェクト等で必ずと言っていいほど発生する問題です)
ベンチャー組織で起きやすいこと
ベンチャーでは、営業、プロダクト、経営の距離が近い。
これは大きな強みです。顧客の声をすぐに共有し、製品や提案を変えられる。
一方で、距離が近すぎるために、顧客要望をそのまま開発要件として受け取ってしまうこともあるでしょう。(経験談です)
顧客が求めた機能をすべてつくれば、プロダクトは複雑になる。営業が大型案件を取るために個別対応を約束すれば、開発やカスタマーサクセスの負荷が増える。
当たり前ですが、顧客の声を聞くことと、顧客の言うとおりにつくることは違います。
学び
営業から他部門へ顧客情報を渡す際には、単なる要望ではなく、少なくとも次の観点を整理すべきです。
- 顧客が表明している要望
- その背景にある根本的な課題
- 同様の課題を持つ顧客の広がり
- 対応した場合の売上や継続への影響
- 開発、運用、サポートにかかるコスト
営業の役割は、顧客の要求を社内へ転送することではなく、顧客の声を、経営判断に使える情報へ翻訳することです。
下記、これまでの内容をまとめ、ポイント部分を整理します。
大手組織へのポイント:足すのではなく、減らして、つなぐ
大手企業の営業課題は、「仕組みがないこと」よりも、「仕組みが多すぎること」から生まれます。
戦略も制度も会議もある、システムも専門部隊も充実している。それにもかかわらず、個々の仕組みがつながっていない。
大手組織が最初に取り組むべきなのは、新しい営業手法やツールを追加することではなく、既存の仕組みを整理することにあるはずです。
優先順位を減らす
重点顧客、重点商品、重点テーマを増やしすぎない。
何をするかだけでなく、何をしないかを決める。営業担当者がすべての要請に応えなければならない状態では、戦略的な資源配分はできません。
顧客単位で情報と責任をつなぐ
商品、部門、エリアをまたいで、顧客を一つの単位として見る。
誰が顧客全体に責任を持つのか。誰が専門知識を提供するのか。得られた情報をどこへ蓄積するのかを決める。
管理職の仕事を、監視から支援へ変える
営業管理職が数字の集計と進捗確認に時間を使いすぎると、メンバーの案件を前へ進める支援ができません。
管理職が見るべきなのは、結果だけではなく、案件がどこで止まり、どのような支援が必要なのかです。
大手企業の営業改革で重要なのは、仕組みを増やすことでありません。
顧客価値につながらない複雑さを取り除き、分断された仕組みをつなぎ直すことにあります。
ベンチャー組織へのポイント:速さを失わず、学習を個人から切り離す
ベンチャー企業の営業課題は、「制度が多すぎること」よりも、「重要な判断が個人に依存していること」から生まれます。
創業者が売れる。古参メンバーが顧客を理解している。特定の営業担当者だけが大型案件を取れる。少人数のうちは、それでも組織が回る。
しかし、人が増えた瞬間に、なぜ売れているのかが共有できなくなります。
創業者の直感を、検証可能な仮説へ変える
創業者が知っている顧客像、課題、競争優位を言語化する。
ただし、固定された正解として伝えるのではなく、「現時点では、こう考えている」という仮説として共有することが重要です。
採用する一歩前に、最低限の型をつくる
営業人員を増やす前に、ターゲット、商談段階、案件の進行条件、失注理由を整理する。
人を増やしてから標準化しようとすると、それぞれが異なる営業方法を身につけたあとで統一することになり、難易度が爆上がりします。
(急激に営業マンを増やし、ルールもカルチャーも一気にカオス化したベンチャーを経験しました…)
例外対応を、営業努力と勘違いしない
顧客ごとの個別対応は、初期の学習には有効です。
しかし、例外対応が増え続けると、売上は伸びても組織が疲弊することでしょう。
その対応は、将来ほかの顧客にも提供できるのか。個別案件のためだけに発生していないか。継続可能なコストなのかを確認する必要があります。
ベンチャーに必要なのは、大企業のような重い制度ではなく、顧客から得た学びを、特定の個人がいなくても再利用できる最低限の仕組みです。
自社の営業組織を診断する7つの問い
本書を読んだあと、自社の営業組織について考えるなら、まず次の7つを確認するとよきかと思いました。
- 優先する顧客と、追わない顧客を明確に説明できるか
- 営業の評価指標は、売上以外の利益や継続性も捉えているか
- 営業戦略は、個々の営業担当者の次の行動まで翻訳されているか
- 優秀な営業担当者が行っている判断を、組織として言語化できているか
- 営業担当者が顧客への価値提供に使っている時間を把握しているか
- 営業だけでは解決できない問題を、他部門へつなぐ仕組みがあるか
- 営業会議は、報告だけでなく、組織としての意思決定を生んでいるか
この問いに答えられない部分こそ、営業力を弱くしているボトルネックである可能性が高いでしょう。
「最強の営業」とは、スーパースター営業のことではない
『最強の営業戦略』というタイトルから、トップセールスになるための話術や、顧客を説得するテクニックを想像する人もいらっしゃると思います。
しかし、本書が描いている「最強の営業」は、一部の天才的な営業担当者に依存する組織ではありません。
- 誰を狙うのか
- 何を価値として提供するのか
- どのような活動を行うのか
- 何を評価するのか
- 誰が支援するのか
- 顧客から何を学ぶのか
それらが一本の線でつながっている組織である、とされます。
大手企業は、仕組みを足しすぎることで、営業を顧客から遠ざけることがある。
ベンチャー企業は、仕組みをつくらなさすぎることで、営業を個人に依存させることがある。
それぞれに対応すべきポイントは異なります。
大手企業には、削ることと、つなぎ直すこと。
ベンチャー企業には、言語化することと、最低限の型をつくること。
ただし、目指す状態は同じです。
戦略が顧客接点まで届き、顧客接点で得られた情報が、再び経営や事業へ戻っていくこと。
営業力とは、営業担当者個人の才能の総和ではなく、組織が顧客から学び、その学びによって次の行動を変え続けられる力なのだと思いました。
