怒り

日の深夜に観てきました。24:10からの怒り。なんとも重々しい。

結論、相当よかったです。正直良すぎてまだ解釈しきれていません。ので、もう一度観ます。はい。

鑑賞後、思わず絶句する作品でした。(※ネタバレはしません)

演者一人残らず演技が凄まじくて、息をつく暇がない。全てのシーンがクライマックスなんじゃないかと思ってしまう感覚。演技に体温を感じるから、演技している感、つまりは虚構感が臭わない。 もはやエンドロールの明朝体さえ良いと感じてしまった。笑

怒りって、その感情が深くなればなるほど、外部に当たってどうこうなるものではないはず。本当に強い怒りは心の澱となり、発散されないまま積み重なっていき、ふとしたきっかけで溢れ出し、もう対処もできない。

そういった心の中でギリギリのバランスをとっていた感情の揺らぎが、一気に最高潮に達した際に爆発してしまうシーンってたいてい終了間際のクライマックスで、どの劇場作品においても共通に一番の見どころ。

しかし、この作品の場合、その爆発がいつ来てもおかしくない。上映開始後間もなくに、既に爆発寸前なのでは?といった感覚を持ちつつ鑑賞を続けるハメになる。

だから、観ているうちに体温が上がった気がしたし、なぜか変に体が重く、汗をかいていた。

宮崎あおいが役づくりのために増量した話を知り、役者魂を思い知ったことに加え、なんといっても綾野剛のカメレオンっぷりには驚き。すごいですね、綾野剛って。型がないというか、あの独特な彷徨い感。広瀬すずちゃんのあの静かに火をともしたような鋭い眼差しと、熱量のある演技も素晴らしかった。妻夫木君のきちんとしたゲイらしさも、森山未來の愛情と憎しみが入り混じってコントロールの効かない役どころも、渡辺謙さんの迫力も、松山ケンイチの余白のある演技も。その他演者さんも素晴らしい。(素晴らしいとしか言えない)

この作品は、素性の知れない男と出会い、親密になり、段々と疑念を覚える…..というストーリーが東京・千葉・沖縄と3つの舞台で展開されるわけですが、各々の場面の切り替えも自然で、無音シーンの取り入れ方も秀逸。監督すごい。

そもそも犯人以外を描いた2つのパートは、事件と全く無関係という、ミステリーとしては相当に斬新な構造。これを一つの作品として脚本に落とし込んだ李監督の力量に感服してしまう。

どんな局面でも、大切な人のことを信じられるか、そして信じようとしている自分自身を信じ抜けるのか。信じることの尊さと難しさを問う作品でした。生きるって難しいですね。

と、同時に、自分の中で真実だと思い込んだことが、いかに呆気なく崩れ去るものなのか、ということを思い知る作品だったなと。原作者の吉田修一先生自身、最後まで犯人を決めずに書いていたらしいですね。

また、対比がとても印象的。

冒頭の殺人現場に書かれていた白い壁への赤い「怒」という文字、そして…(ネタバレなので省略)。

性的マイノリティへの理解の浅さ、田舎という村社会の生きづらさ、米軍基地問題といった外部への怒りを抱いていたところにやってきた、素性の知れぬ男。だんだんと親密になっていく自分、果たして男を信じると決めた自分を信じ切れるのか、そして、信じきれなった自分に対する悔みと怒り。

そもそも相手に愛情がなければ、怒りを抱く前に諦めに至るはずなので、怒りって本当は愛情なんだろうな。怒る、怒られるってそもそもすごく疲れるので。その工数を割く程にあなたに愛情を抱いていますっていう裏返しになるはず。

その点、妻夫木君演じる優馬から「お前のこと、疑ってんだぞ」と真正面から言われた際に、綾野剛演じる直人が返した「疑ってるんじゃなくて、信じてるんでしょ」というセリフはとても印象的。この作品の核だったと思いますね。

そんな上記ゲイカップルの2人は決して向かい合うことがなく、ラーメン屋の描写だって、窓際だって、ベットシーンであっても、常に同じ方向を向いていました。相手を見つめると、自分がマイノリティであることを否応なしに自覚してしまう。そのことを避けているんですね、とても象徴的な撮り方。

作品の中で2つだけ突っ込みどころ(というか、プラスに思わなかったこと)を挙げるとするならば、高畑充希ちゃんの鼻が喋るたびにピクピクするところと、号泣する妻夫木くんが”涙そうそう”に見えてしまうところくらい。

逆にそれくらいしかなかった。笑

泉ちゃんのセリフから、あるドイツの諺を思い出したので、最後に。

“怒りに対する最上の答えは沈黙”

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